「愛国裹む霹靂」マリスジェム_story1
---紹介所---
主人公「それじゃあここに、自分の名前を書いてください。」
マリスジェム「うむうむ。」
メルク「みゅ~、達筆なのです。」
マリスジェム「ふぉっ、ふぉっ、どうもありがとう。ほい、書けたよ。」
主人公「じゃあこの蝋で封をして……完成です!」
マリスジェム「ほほ~う、手紙自体は魔法の国とそう変わらんのじゃな。」
主人公「あれ、まったく一緒でしたか?」
マリスジェム「細かなところに違いはあるがの。重要な手紙は、魔法で封をしたりするし。」
マリスジェム「だがまぁ、ほとんどは一緒じゃった。お隣さんの国じゃからかのう?」
主人公「じゃあ、説明は余計だったり……?」
マリスジェム「なんの! 知っていると思い込んで行動することほど、危険なことはあるまいて。」
マリスジェム「どんなことでも、初めてであれば先生は必要じゃ。それが例え知っていることでも、『正解だった』という安心を得られるしの。」
マリスジェム「だからありがとよぉ。お陰で王国での手紙の書き方もばっちりじゃ。」
主人公「お役に立てたのなら良かったです。」
メルク「これからも何かあれば遠慮なく聞いてほしいのです!」
マリスジェム「うむ、では早速なのじゃが……、」
メルク「みゅ?」
---町---
モノバット「きゅーい。」
主人公「ここがモンスター郵便の受付です。」
メルク「このモノバットが手紙を運んでくれるのですよ!」
マリスジェム「なるほど、これが噂の……。」
マリスジェム「……。」
主人公「マリスジェムさん?」
マリスジェム「噛んだりしない?」
主人公「はい、もう癒されてますから。理由もなく襲ってきたりはしません。」
主人公「ほら、こっちに来てくれ。手紙を出したいんだ。」
モノバット「きゅいー。」
マリスジェム「おお、肩に乗った! 見事なものじゃのう……。」
メルク「マリスジェムさんの肩にも乗ってくれるのですよ?」
マリスジェム「なんと?」
モノバット「きゅきゅーい。」
マリスジェム「ほっ……!?」
メルク「だ、大丈夫なのです?」
マリスジェム「……。」
メルク「マリスジェムさん……?」
マリスジェム「……緊張で動けん。」
メルク「みゅ、みゅう……。」
主人公「か、代わりに出しましょうか?」
マリスジェム「い、いや、ここは頑張らせておくれ! そのためにここまで来たのじゃから……!」
マリスジェム「落ち着くのだ、マリスジェム。彼は敵ではない。迎撃する必要もない……。」
主人公(なんか物騒な単語が出たような……)
メルク(主人公さんのモンスター恐怖症とは、また違った感じなのですよ……)
マリスジェム「こ、これを……、」
モノバット「きゅい?」
マリスジェム「……。」
マリスジェム「頼める、かの?」
モノバット「きゅいー!」
マリスジェム「ほっ……。速いの。」
マリスジェム「……これで、いいのかな?」
主人公「はい、あとはモノバットが指定された場所に届けてくれます。」
メルク「お疲れ様なのですよ、マリスジェムさん!」
マリスジェム「おお、そうか……。そうかそうか。やり遂げたか。」
マリスジェム「いやぁ、ありがとう、2人とも。おかげさまで目標を達成することができた。」
メルク「目標というのは、手紙を出すことなのです?」
マリスジェム「というより、モンスター郵便を利用することじゃな。人と日常を共にするモンスターというものに、触れてみたかったのじゃ。」
主人公「あれ、魔法の国にも人と暮らすモンスターはいますよね?」
マリスジェム「うむ、確かにおる。時折、魔法の国に訪れてくれる癒術士が癒していってくれるおかげじゃのう。」
マリスジェム「じゃが、これほど生活と密接にはない。王国であればモンスターが引き受けてくれいてる仕事も、魔法で対応しておるしのぅ。」
メルク「みゅ~、それは気になるのですよ! 魔法の国ではどんな風にしているのです? 例えば……、さっきのような郵便は?」
マリスジェム「風の魔法に長けるものは、自分で風に乗せるが、最もポピュラーなのは箒郵便かのう。」
マリスジェム「さっきのモンスターの役目を、箒の操作に長けた魔法使いが引き受けるのじゃ。」
メルク「みゅ~、箒で……。」
主人公「モンスター郵便とは何か違いましたか?」
マリスジェム「ふむ、どちらもまた良いものじゃ。こうして体験してみるとよくわかる。」
マリスジェム「箒郵便であればより大きな荷物を運べるし、箒に乗れさえすれば誰でもできるという、利点有り。」
マリスジェム「しかしモンスター郵便のあの速度は人が乗る箒では出すことはできんじゃろう。そして、渋滞がないのはよい。実に良い。」
主人公「箒で渋滞があるんですか?」
マリスジェム「箒も別段珍しいものではないからのぉ。よく魔術協会の交通課が整理に出ておる。」
主人公「魔法も魔法で大変なんですね……。」
マリスジェム「厳密に言うと、箒は魔法ではなく魔道具に近く……と、これは話が長くなるか。」
マリスジェム「ともかく、魔法も万能の技ではないということ。モンスターもまた、超常の存在ではないということ。そして共に、人の助けにも脅威にもなる。」
マリスジェム「それがわかったことは大きな収穫じゃ。ふぉっ、ふぉっ、王国に来た甲斐があったの~。」
主人公「それを確かめるために、手紙を……。」
マリスジェム「うむ。ワシの頭の中は、あらゆる知識と雑念でいっぱいでの。最早聞くだけでは、素直に入ってくれんくなった。」
マリスジェム「じゃから、実際に触れる必要があった。……ことモンスターのことであれば、特に。」
メルク「……たしか、マリスジェムさんの血筋はずっとモンスターと戦い続けてきたと聞いたのです。」
マリスジェム「うむ、正確にはモンスターだけでなく外の国や自然災害、国内に忍び込んだ怪しき影。」
マリスジェム「それらの脅威から国を守ること。それこそが建国から我がアプロシウス家が引き受けた使命。我が家の知識と技術、即ち魔法の意義である。」
マリスジェム「まぁ、隣国とはいえ癒術士のいない国。脅威として対峙したのはモンスターが最も多かったがの。」
マリスジェム「……じゃからこそ、ワシの中に眠るモンスターへの恐怖と警戒は根深い。日常で彼らと向き合えるのは、時間がかかりそうじゃ。」
主人公・メルク「……。」
マリスジェム「ま、これは朗報でもあるんじゃがの。」
主人公「朗報、ですか?」
マリスジェム「ふぉっ、ふぉっ、そう朗報じゃとも~。」
主人公「あっ、ちょっ! マリスジェムさん!?
メルク「朗報とは何のことなのですー!?」
マリスジェム「まぁまぁ、そのうちわかるわい。楽しみにしておいで。」