「遠覧する愛心」アザリアス

メルク「女の子がいなくなった、のですよ？」

主人公「そうなんだ。さっきまでお母さんと一緒だったらしいんだけど、ちょっと目を離した時にいなくなってたって。」

主人公「今、村の人たち総出で探してるらしい。悪い、メルク。俺、ちょっとその子を探してくる。」

メルク「みゅ、分かったのですよ！主人公さん、お気をつけて、なのですよ！」

(暗転)

メルク「みゅ～……。皆さん、まだ慌ただしそうなのですよ。いなくなった女の子は一体どこに……、」

村の少女「え～ん！」

メルク「みゅわっ！？あ、あんな高い木の上に女の子が！？」

メルク「枝に風船が引っかかって……、まさか、１人であれを取ろうとしているのですよ？」

メルク「や、やめるのですよー、無茶なのですよー！このままでは危ないので……、」

メルク「みゅっ！風が……！」

村の少女「あっ！お母さんに買ってもらった風船が……！」

メルク「ダ、ダメなのですよ！落ち……、」

村の少女「きゃあっ！」

アザリアス「よく頑張ったな。」

メルク「みゅっ？空から、男の人が……。」

アザリアス「おまえのこと、空から見ていたよ。まだ小さいのに、よく頑張ったな。ほら、おまえが探していた風船だ。」

アザリアス「探しものが見つかったなら、気を付けて帰るといい。あっちに、おまえのことを心配している人がいるからね。」

村の少女「あっ、みんな……！」

村の少女「お兄さん、ありがとう！」

(暗転)

メルク「みゅ～、女の子が無事でよかったのですよ！あの人が助けに来てくれて、本当によかったのですよ～。」

アザリアス「そうだな。あの子に大事がなくてよかった。」

メルク「みゅ！？わ、私に気づいていたのですよ？ええと……、」

アザリアス「アザリアス、って呼んでくれよ。」

メルク「みゅ！アザリアスさん、ありがとうなのですよ！」

メルク「風船が飛ばされてしまった時は、もうダメかと思ったのですが……。」

アザリアス「ああ、悪い。あれ、オレが飛ばしたんだ。あの風船を取るのに、翼があると枝が邪魔でさ。」

メルク「た、確かに……。アザリアスさんの翼はとっても大きいのですよ。」

メルク「風船を取るにも、アザリアスさんが木登りをするのは難しそうなのですよ～。」

アザリアス「そうなんだよ。そもそもオレ、木登りってしたことなくて。」

アザリアス「……。」

アザリアス「よっと。」

メルク「アザリアスさん、何故おもむろに木登りを始めたのですよ！？」

アザリアス「そう言えば、オレって木登りしたことないなー、木登りって楽しそうだなー、って思って。」

アザリアス「ふーん、これが木の皮を踏む感覚か。足の裏に、ごつごつぃた感触が伝わってくる。うん、なかなか面白いなあ！」

アザリアス「おっと……、やっぱり翼が邪魔だな。でも、うまくバランスを取れればいけるか……。ああ、分かってきたぞ。いけるいける！」

アザリアス「よっと！ははっ、やった！　頂上だ！何だ、翼があってもいけるじゃないか！」

アザリアス「いいね、この景色。飛んでいる時より、ずっと低い世界だけど。木陰を通して見る世界も悪くないな。」

メルク「あ、アザリアスさん！そんなに高いところまで登って、大丈夫なのですよー！？」

アザリアス「大丈夫だって。そうだ、おまえもこっちにおいで。」

メルク「みゅ？」

メルク「みゅわわっ！瓶が勝手に浮いて……！？」

アザリアス「ほら、見てごらん。木の上からの景色だ。」

アザリアス「オレには低すぎて、おまえには高すぎる、羽を休める鳥の世界だよ。」

メルク「みゅわ～……！何だかとっても新鮮なのですよ……！」

アザリアス「そうだよう？おまえも気に入ってくれたみたいでよかったよ。足を汚した甲斐があったな。」

メルク「本当なのですよ。アザリアスさんの足が……。」

アザリアス「後で洗えばいいだけさ。」

メルク「……アザリアスさんは、何だか不思議な人なのですね。」

アザリアス「そうかな？アーフェクテオの民は、大体こんな感じだよ。」

メルク「アーフェクテオ？」

アザリアス「空の国の第一都、アーフェクテオ。オレの故郷なんだ。」

アザリアス「アーフェクテオはいいところだよ。翼の大きな民にとっても、翼の小さな民にとっても。地上の民にとっても、きっと誇れる都だとオレは信じてる。」

アザリアス「アーフェクテオがそのような善き都であるように、オレたち自身が努めているから。」

メルク「もしかして、アザリアスさんはアーフェクテオの偉い人……、なのですよ？」

アザリアス「アーフェクテオには、偉いやつも偉くないやつもいないよ。侯主は一応いるんだが、まあ、お飾りだな。別に悪い意味じゃないんだが。」

アザリアス「アーフェクテオはみんなの都市なんだ。どんな場面でも、みんなが平等に発言できる。」

アザリアス「オレはアーフェクテオを誇りに思ってるよ。おまえもいつか、オレの故郷へおいで。アーフェクテオのどこへだって、案内してやるから。」

メルク「みゅわわ……。木漏れ日をバックにお話しするアザリアスさん、何だかとっても格好いいのですよ～。」

アザリアス「へえ、本当？　嬉しいなあ。もしかして、オレに惚れた？」

メルク「みゅみゅ！？」

アザリアス「ははっ、何てね。ちょっと強引だったかな。」

メルク「ということは、本気ではなかったのですよ？」

アザリアス「ごめんごめん。こういうの、ちょっと興味があってさ。恋人を作る気はないんだけど。」

メルク「……？」

アザリアス「分かりづらかったかな。オレはみんなを愛してるから、恋人は必要ないって言いたかったんだよ。」

アザリアス「オレの愛は、誰か１人に捧げるものじゃないからね。」

メルク「……。」

アザリアス「たとえばオレは、この木陰で見る景色が好きだ。ロマンｔックだと思うよ。」

アザリアス「でもそれは、オレには必要ないものだ。」

アザリアス「ほら。ここにいると、空を飛んでいる時よりも視界がずっと狭まって、見えるはずのものが、見えなくなってしまうだろ。」

アザリアス「オレがあの女の子を助けてやれたのは、オレが空からあの子を見ていたから。」

アザリアス「オレ自信が、あの風船のように木の枝に絡まってちゃいけないんだ。」

メルク「もしかして、アザリアスさんは……、誰かを好きになりたくない、のですよ？」

アザリアス「おまえは聡い子だな。」

アザリアス「そして、優しい子だ。幼馴染には、もうちょっとキツく、『恋愛というより、人付き合いに臆病だ』って言われてね。」

アザリアス「オレには別に、そんなつもりはないんだけどな。」

アザリアス「オレはただ、全ての人間を見守れる人間が、１人くらいは必要だって思うだけなのに。」

主人公「おーい、メルクー！どこだー！」

メルク「みゅっ、主人公さん！主人公さーん、私はここなのですよー！」

主人公「あっ、そこにいたのか！よかったあ……。」

主人公「って、何でそんなところに！？ていうか、そこの人は誰！？」

アザリアス「心配かけて悪かったね。さっきまで、おまえの友達と話しててさ。」

主人公「そ、そうだったんですか……。」

主人公「でも、とにかくメルクに何事もなくてよかったよ。まさか、いなくなった女の子を捜してる間にメルクまでいなくなるなんて思わなくて……。」

メルク「みゅ～、心配させてしまったのですよ……。」

メルク「も、私も、女の子とも大丈夫だったのですよ！アザリアスさんのおかげなのですよ～！」

アザリアス「ああ。オレもおまえと話ができてよかったよ。」

アザリアス「おまえたちの旅路が善きものであるよう、オレも空から……、いや……、」

アザリアス「……。」

(場面切り替え・夕方の紹介所)

紹介所のお姉さん「あら、こんにちは。空の国の方ね。この紹介所に登録に来たのかしら？」

アザリアス「ああ。オレは……、」

アザリアス「出会いを求めに来たんだ。」

(暗転)

アザリアス「……はあ。」

アザリアス「結局、あいつらの仲間になっちまったなあ。あいつの言った通りになったってわけだ。何か癪(しゃく)だな。」

アザリアス「……オレは、全ての人間を見守れる人間が、１人くらいは必要だって思ってるはずなのに。」